不思議の国でアリんス2012 8月23日(木)から27日(月)at東京キネマ倶楽部 【作・演出】望月 六郎 【出演】戸田 佳世子/黒沢 美香/松山 クミコ/中田 有紀/ゆうき 梨菜/皆川 舞/白石 量子/奈良坂 篤/船戸 慎士/篠原 さとし/細山田 隆人/J・橋口 裕/丸山 正吾 他 チケット先行予約開始

したまち演劇祭出演決定!望月流おとぎ話が、歌とダンスで炸裂!

羨望の的

若い人には馴染みがないかもしれないが、文豪永井荷風の晩年の写真というと、浅草の踊り子たちに囲まれて益々その飄々たる自由人ぶりを披露しているものが多い。また、かつての日劇ミュージックホールの作家・演出家丸尾長顕や後に「楢山節考」で作家デビューするギタリスト深沢七郎は、当然のことながらダンサーたちに取り囲まれているのが常態だった。これらの写真に意識下でそそられたわけでもないと思うが、私も生来ダンサーが好きだった。

今でも鮮烈に覚えているダンスショーは、私が東映東京撮影所に入っての最初の仕事、家城巳代治監督の「弾丸大将」で御殿場の地にいた時に廻ってきた一座のストリップだった。畑から引き抜いてきたばかりの大根のような足をしたダンサーが狭い舞台から落ちる一幕もあった。その後、私は日劇ミュージックホールにも通い、贔屓にしていたあるスターダンサーを撮影所のステージに引っ張り出したこともある。ある映画のナイトクラブのシーンのためだった。

私が監督になって数年後、東宝の演劇部のある筋から日劇ミュージックホールの演出をしてみないかとの打診があった。私の趣向が知られていたわけではない。それだけに、私は千載一遇のチャンスとばかり喜び勇んで引き受けたのだが、殆ど何一つ取り掛からないまま、沙汰止みになってしまった。その後、東宝側は、一段グレード・アップした形で、私を起用してくれることになる。日比谷の東宝・芸術座の舞台ウイリアム・ギブスン作「奇跡の人」の演出である。市原悦子のサリバン先生、荻野目慶子のヘレン・ケラーで評判を呼び、私にとってかけがえのない体験とはなったが、日劇ミュージックホールの欠落体験は依然として私の内部に深く沈潜している。

ここまで私事のみを書き綴ってきたが、ここに至れば、表題の意味も明らかであろう。私にとって、望月六郎と劇団ドガドガプラスの営為は文字通り羨望の的なのだ。

先ず、劇団名がいい。踊り子を描いたドガに因んだとしても、今や固有のオノマトペだ。

勢いのいい踊り子たちの足音とも、前進する劇団員の底力とも、受け取れる。そして、座付作者・演出家としての望月六郎の立ち位置、贋作シリーズと銘打って、連続性を確保したこと、枯渇しない鉱脈を探り当てたこと、その上で独自の歴史観、世界観を追及していること、実に賢明であり、無限の可能性を担保していると言えよう。望月六郎の調査研究魔ぶりは、夙に私の知るところであり、想像力が衰えることはあるまい。あとは、劇作家・演出家としてのさらなる成長を期待するのみだ。

そして、最近の劇団員の充実ぶり、作曲家をはじめとする才能あるスタッフの実力発揮と、歩調は揃いつつある。2006年暮れの第一回「贋作・人形の家」から付き合ってきた身としては、その足取りに思いを馳せ、また新たに革められた「偽作・不思議の国でアリんス2012」に期待するところ大である。そして、劇団ドガドガプラスの実践が、同時に映画を撮る時の監督望月六郎の財産となることを私は信じて疑わない。

伊藤俊也監督

伊藤俊也(映画監督)

【映画作品】

女囚701号 さそり
女囚さそり 第41雑居房
女囚さそり けもの部屋
犬神の悪霊
誘拐報道
花いちもんめ。
プライド・運命の瞬間
ロストクライム-閃光-
2003年、紫綬褒章受章