主人公「太田」は日露戦争後に青春時代を過ごした画家である。東京美術学校を卒業したのちフランス洋行を果たし裕福で自由の気風を身につけた青年だった。帰国後、妻「辰子」と息子「和也」との穏やかな生活を送るも“あの戦争”が家族のあり方を変えていく。「和也」の結婚、妻「辰子」の死、「和也」の出征と戦死。初老を迎えた「太田」と家に残った嫁「雪江」との暮らしは、戦争の形勢が傾くにつれ密度を増していった。許されない行為、愛である事を承知しながら、寄る辺ない二人がようやく辿り着いた岸辺であった。やがて訪れる8月15日…日本の敗戦は二人の愛の終焉を意味していた。